シリーズもちょうど折り返しだ。ここで一度、立ち止まる。私たちはこれまで、家事の偏り、選択の不自由、制度の限界、世界との差を見てきた。そして毎回、最後に「あるラスボスがいる」と書いてきた。今日、その正体を明かす。結論から言う。ラスボスは「社会規範」だ。
社会規範とは、難しく言えば「みんなが当たり前だと思っている、暗黙のルール」のことだ。法律のように紙に書いてあるわけではない。だが、法律より強く人を縛ることがある。「男は仕事、女は家庭」「母親なら子どものそばにいて当然」「父親が育休なんて」。誰が決めたわけでもないのに、私たちの行動を縛るこの空気こそ、最後の敵だ。
なぜ「規範」が最強なのか

これまで見てきた問題を思い出してほしい。育休の制度はある。だが「取ると迷惑」という空気が使わせない。働く選択肢はある。だが「母親なのに」という視線が選びにくくする。韓国は法律を進めたのに、規範が重くて結果が出なかった。つまり、制度という武器をいくら手に入れても、規範というラスボスを倒さなければ、攻撃が通らないのだ。これが、変革が遅々として進まない最大の理由である。
規範は「自分の頭の中」にもいる

厄介なのは、この敵が外だけでなく、自分の中にもいることだ。第3回で見たように、私たちは子どものころから規範を浴びて育つ。だから本人ですら「私は家庭向きだから」「俺が稼がなきゃ」と思い込む。誰かに強制されなくても、自分で自分を縛ってしまう。ラスボスは、私たち一人ひとりの内側に分身を住まわせている。だから手強い。
では、規範はどこから来たのか

ここで当然、こういう疑問が湧く。「その“当たり前”は、いったいいつ、どうやって作られたのか」。男が外で働き女が家を守るのは、人類にとって本当に“自然”なのか。それとも、後から作られたものなのか。これが分かれば、ラスボスの弱点も見えてくる。後から作られたものなら、作り変えられるからだ。
規範は「善意」の顔をしている

ラスボスが最強である理由を、もう一つ挙げる。社会規範は、たいてい“善意”の顔でやってくることだ。「子どものためを思って」「あなたを心配して」。母親に家庭を勧める言葉も、男性に大黒柱を求める言葉も、多くは悪意ではなく善意から発せられる。だからこそ反論しにくい。悪意とは戦えるが、善意の圧力は受け止めるしかない。この“優しい顔をした強制”こそ、規範がしぶとく生き延びる秘密だ。
だが、規範には弱点がある

では勝ち目はないのか。ある。規範の最大の弱点は、「ただの思い込みである」という一点だ。法律のように動かせない岩ではなく、みんなが信じているから存在しているだけの幻でもある。だから、信じる人が減れば、規範は力を失う。「父親の育休は当たり前」と思う人が増えれば、その瞬間、古い規範は溶け始める。つまり規範は、私たち一人ひとりの“思い込み”の更新で倒せる。後半は、その具体的な倒し方を学ぶ旅になる。
だからシリーズ後半は、このラスボスの“生まれ”を徹底的に調べる。まず歴史をさかのぼり、男女の役割がいつ固定されたのかを突き止める(第10回)。次に、その差を生む仕組みを分解する(第11・12回)。そして、人々が不利な立場から権利を勝ち取ってきた“必勝パターン”を学び(第13回)、よくある反論に答え(第14回)、最後に「では会社員の私たちに何ができるか」へたどり着く(第15回)。敵の正体は分かった。ここからは攻略編だ。